まるで生きているかの様な、黒煙に酷似した霞みがかった闇は、何も無い積雪の上に歩み出て来た。
…歩み出るとはおかしい表現だが、確かに…歩いてきたかの様に、闇は移動した。
形も曖昧な、生きた漆黒の霞み。
こんなもの、これまでの人生で見たことも聞いたことも無い。
目の錯覚かとも思ったが、何度瞬きしても、徐々にこちらへ近付いてくるそれは確かに生き物の様だった。
それまで感じていた違和感は、この黒い物体に集中している。
驚きと、戸惑いと、そしてあまり認めたくはないが恐怖に似たものを胸に抱きながら、ダンテは距離を詰めてくる黒い靄に狙いを定め、睨み付けた。
互いの距離は一歩分という所まで来ると、揺らめく靄はそこでピタリと動きを止めた。
その場一帯の空気が、音も無く張り詰める。
息苦しさまで覚える中、ダンテは目の前の孤立した闇の蠢く様を、鋭利なやじりの先に見詰めていた。
…どう出る?どう動く?だが…これは何なんだ?
常ならば相手の次の動きを読もうと働く頭は、今は困惑で思考回路は半ば停止していた。
とにかく、目を離してはいけない。何とかして見定めなければ。
頑として弓の構えも警戒心も解かず、次に相手が何か妙な真似をしてきたら挑発も兼ねて試しに弓を射ってみようか…とダンテは考えた。
乾いた眼球が、何度目になるか分からない瞬きを繰り返す。
視界は一瞬暗転し、瞼が開くと同時に直ぐさま薄暗い光が視界に入り、目の前の変わらぬ景色が映ったが………。
目前にあった筈の黒い靄だけが、確かな輪郭を持つ人影に一変していた。
(―――っ…!?)


