「詳しい事は知らねぇけどさ………昔、俺の爺さんが言ってたぜ?……………遠吠えが鳴り止まない日の夜は………全ての獣が、人間を喰らいに来るんだと、さ………次の日には、何も残ってないんだとよ…」
“目覚めの災い”とやらがどういうものなのか、二人はあまり知らない。だが、過去に起こったその惨状は先祖から代々口承されて伝わっている。
災いが一体何なのかは分からない。
ただ、獣が人里に下りて人間を貪り喰うものだとは聞いている。
この災いとやらが本格的に覚醒する今日の月夜………そうだ、今夜は弓張月だ。
偉大なる創造神アレスがこの大地に御目を向ける…運命の日、とやらだ。
新しき王が、生まれる日。
…といっても、その新しき王も所詮は自分達狩人とは違う、王族。…街の民側の人間。
長老という名の王がいる狩人にとっては、王族が再び王座につこうが何だろうが、はっきり言ってどうでもよいことだ。
むしろ何故今回の災いに巻き込まれなければならないのか、と不満さえ出て来る。
…関心など、無いのだけれど。
「災いが来ようが、どうでもいいの。ただ……新しい王様は、無事に生まれてほしいわね。………王様になる予定の子供…ちょっと見たけど。………………良い子だったわよ。…あの、いつもは守られる側のレトが今度は守ってるんだもの。…そりゃもう、大事にね…」
ザイ以外の人間には、長い時間を共有することで互いに打ち解けない限り、滅多に他人に懐かないレト。
その生まれながらに人間不振の少年が、僅か数週間という短い時間の中で親友という得難いものを手に入れていた。
レトを友と呼び、レトにそれまでは無かった人間らしい豊かな感情を与えてくれた…青い髪の小さな王様。
仲の良い、まるで兄弟の様な二人に、マナは目を細めたものだ。


