周囲を囲む真っ白な山々からは、獣の遠吠えが鳴り止まない。
日が昇り、傾き始めても、それは依然として変わらなかった。
このデイファレトは数日前から何かがおかしいとは思っていたが、その不安は現実のものとなった。
何かが起きる。…否、起きている。
早朝から森を歩いているが、不思議なことに…全く獣と遭遇しないのだ。別に気配を消している訳でも無い。むしろ向こうから現れてもいいくらいなのに、野良犬一匹も見ないというのはどういうことだろうか。
忽然と、姿を消した獣達。だがその遠吠えだけは、あちこちから聞こえてくる。
………この、不気味な事と言ったら…。
「………何が起きてるのか、知ってそうだな…お袋…」
「……あー…まぁね………全く知らない訳じゃないわね」
いつまで経っても解くことの出来ないこの妙な緊張感に苛立ちながら問えば、我が母は半ばどうでもよさそうに答えた。
…とにかく、面倒極まりない事には違いないだろう。
吹雪に隠れた遠くの山から再び聞こえてきた遠吠えに、ダンテは視線を向けた。母のマナと共に親子揃って樹木の根に腰掛けた状態で、二人は獣の声をぼんやりと聞いていた。
呻き声は聞こえども、その姿は見えない。…不気味だ。
昼下がりだが薄暗い、冷たい空気に向かって深い息を吐いていると、自分らを囲む藪の向こうから、腐れ縁のアオイが現れた。
相変わらずの腑抜けた笑顔の彼の手には、ベッタリと鮮血が付着した剣が一本。
対しるダンテは表情一つ変えることもなく、「それ、拭えよ」とだけぶっきらぼうに言った。
「殺ったのか?」
「勿論。なんせ『虫殺し』だからな。……襲ってきたのはやっぱりバリアンだったぞ」
「…馬鹿な連中」


