己の体内から吐き出されて鮮血に塗れた手の平を、ケインツェルは特に驚く様子も無ければ、怯むことも無く、ただじっと見下ろしていた。
独り困惑する兵士が見詰める中…ケインツェルは何故か、いつもの意地悪い笑みを浮かべた。
不意に頭上に手を翳し、手の平のしわや指紋の溝に染み込んでいく赤色を、まるで美術鑑賞でもするかの様にうっとりとした表情で彼は見上げていた。
「…ああそうだ、君」
「…は、はいっ…!?」
「………今さっき言った事で一部、前言撤回で。………今日一日は私…自室にいることにしますね。………ちょっとばかし、体調が優れないんですよねぇ…フフフ!」
優れない…というレベルではなく今すぐにでも医者に看てもらった方がいい筈なのだが、この口を挟めない異様な威圧感に、兵士はただ頷くことしか出来なかった。
それでも何か言いたげにパクパクと小さく口の開閉を繰り返す兵士だったが、そのまま無言で退室していった。
兵士が何を言いたかったかなど、聞かずともわかる。目の前で急に吐血されては驚くのも無理は無いけれど。
ケインツェルはハンカチで口元の血を拭い、赤く汚れたそれを見下ろして…フッと、溜め息を吐いた。
…頭痛がする。心なしか、胸と腹が痛い。キリキリと締め上げられているかの様な、息苦しい痛みだ。
このあまりにも虚弱な我が身が、滑稽に思えてならない。
たまに、何故自分はこんなにも不幸なのだろう、と己を憐れむことがある。
「………………代償は仕方ないにしろ……………………何故、私なのでしょうかねぇ…」


