赤槍だけ…と、淡々と報告をすれば、ケインツェルはあからさまに落胆した様な、眉を八の字に寄せた表情で兵士に振り返ってきた。
銀縁の眼鏡が、本の少しだけ下がっている。
「………赤槍、だけですか…やはり。………白も黒も薄情者ですねぇ~…二人のあの長が、もう少し可愛いげのあるお馬鹿な方々でしたら………楽しみは倍でしたのに…」
ケインツェルとしては、賊討伐は素早く迅速に且つ一網打尽…といきたいところなのだが、現実はそう甘いものではない。
今回の練り上げた心理戦で、飛んで火に入ってきた夏の虫は、赤槍だけ。
つられて白と黒の二勢力も少しは藪の中から出て来てくれるのではないかと期待していたが、残念なことに、あの二つは情に流されてはくれないらしい。
(……まぁ、共倒れは嫌ですからねぇ)
規模の大きい仕事が中途半端に残ってしまったことに溜め息を漏らしながらも、内心ではこれはこれで後に楽しみがあって良いかな…と薄ら笑みを浮かべる。
何よりも退屈を嫌うケインツェルには、厄介事も娯楽の一つだ。
それが派手であればあるほど。残忍であるほど。
楽しくて、仕方ない。
「恐らく、事は今日一日で終わるでしょうねぇ。袋叩き同然ですから。夕暮れ時にはエデ砂漠も静かでしょうよ。………まぁとりあえず、状況が進展したら随時報告をお願いしますよ、君。私は今日はずっと謁見の間にいるだろうから、直接あち…ら、に………………」
「………あの…ケインツェル様?」
常に息継ぎがほとんど無い話し方のケインツェルが、あろうことか、途端………口を閉ざした。
あまりにも珍妙な事態に、兵士は驚きの入れ混じった訝しげな表情でケインツェルを恐る恐る窺った。


