………その場にいた全ての人間の視線が……ザイの腕の中で声を上げる、小さな赤子に向けられた。

産着に包まれた紅葉の如き小さな手は、舞い散る雪を掴もうと宙を仰いでいる。
可愛いらしく、そして一切の汚れを知らない、深い紺色のつぶらな瞳は銀世界を映し………見下ろすザイを、じっと見詰めてきた。














その澄み切った瞳を見ていると、何故だろうか。

………抱えた筈の重荷が、今は何でも無いように思えてきた。

…苦にもならない。


周りの目が、何だ。悪いのは私だけ。この子は………何も知らない。





何も知らない子供。









私の。






私の、子供。





たった一人の、私の。

























「………起こして…しまった…な。……………………………ん?………どうした?………………………寒いのか…?」
















愛おしげに、ザイは腕の中の我が子を覗き込み………優しく話しかける。

ふわりと浮かべた微笑をアオイに向けたかと思うと………ザイはそのまま………深い森に向かって歩き出した。






遠ざかる無言の男からは、か細い赤子の声だけが、木霊する。

















禁忌を犯した、堕ちた狩人と……純粋無垢な赤子。





これから、彼等親子はどんな生き方を歩んでいくのだろうか。

世を避ける様に闇へ消えていく、二人の行き先など。

















誰の知るところでも、ない。