亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~



全てが、ゆっくりと流れていく。


火の粉の舞い散る様も、横切る瓦礫の走る姿も、威風堂々と仁王立ちしていた屋敷が赤に包まれ、一気に崩れていく光景も。




それを呆然と見詰めながら、下へ、下へと落ちていく自分も。








全てが、ゆっくりと、時を刻んでいく。














腕に抱く、小さな命の鼓動を除いて。



























「―――…っ…!」


ザイの身体は無意識で受け身を取り、半ば転がる様に柔らかな積雪に落ちた。

直ぐさま上体を起こし、荒ぐ息をそのままに………呆然と………崩れていく屋敷を見上げた。








火の粉と、粉雪。


赤と白が、降ってくる。




絶え間無く、降ってくる。






ザイは地に膝を突いたまま。

無言で。






大きな火を、眺める。







乾いた眼球からは、ただ一滴だけ。



熱い何かが、零れ落ちた気がした。













…胸中に、込み上げる何か。

自分は、何か言いたいのだろうか。




唇は薄く開き、震えている。

掠れた声が、漏れている。








あの赤色に塗れてしまえば、少しは楽になれるだろうか。

………ふと、そんな考えが過ぎった。







…赤色を凝視したまま、ザイは立ち上がり………崩れる屋敷へと歩を進めようとした。





























「―――…ぁー」


















囁き声の様な、か細く小さな声が………ザイの足を止めた。

ぼんやりとした意識で手元に視線を移せば。







包まれたマントの隙間から見える、つぶらな瞳。