全てが、ゆっくりと流れていく。
火の粉の舞い散る様も、横切る瓦礫の走る姿も、威風堂々と仁王立ちしていた屋敷が赤に包まれ、一気に崩れていく光景も。
それを呆然と見詰めながら、下へ、下へと落ちていく自分も。
全てが、ゆっくりと、時を刻んでいく。
腕に抱く、小さな命の鼓動を除いて。
「―――…っ…!」
ザイの身体は無意識で受け身を取り、半ば転がる様に柔らかな積雪に落ちた。
直ぐさま上体を起こし、荒ぐ息をそのままに………呆然と………崩れていく屋敷を見上げた。
火の粉と、粉雪。
赤と白が、降ってくる。
絶え間無く、降ってくる。
ザイは地に膝を突いたまま。
無言で。
大きな火を、眺める。
乾いた眼球からは、ただ一滴だけ。
熱い何かが、零れ落ちた気がした。
…胸中に、込み上げる何か。
自分は、何か言いたいのだろうか。
唇は薄く開き、震えている。
掠れた声が、漏れている。
あの赤色に塗れてしまえば、少しは楽になれるだろうか。
………ふと、そんな考えが過ぎった。
…赤色を凝視したまま、ザイは立ち上がり………崩れる屋敷へと歩を進めようとした。
「―――…ぁー」
囁き声の様な、か細く小さな声が………ザイの足を止めた。
ぼんやりとした意識で手元に視線を移せば。
包まれたマントの隙間から見える、つぶらな瞳。


