亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~



最後の、最後の、我が儘だから。


…貴方は、聞いてくれるかしら。







ザイ。






ザイ。






















「―――…ほら、ザイ」















アシュは、笑った。

綺麗な笑みを浮かべて、笑った。



火柱は、もうすぐそこだった。危機迫る、緊迫感に満ちた空間。様々な物が焼け爛れていく騒音に塗れたこの世界で。




二人のいる場所だけが、無音となった。


何も、聞こえない。風の笑い声も、炎の叫びも。何も。






ただ、目の前の彼女の………ずっと聞きたかった声だけが、聞こえる。



嬉しそうな、彼女の声、だけが。










「―――ほら見て、ザイ」





















アシュは笑みを浮かべて………胸に抱いていたものを、そっと………ザイの手に寄せた。





それは小さくて温かくて、柔らかなもので。





小さく、呼吸を繰り返していて。


























「―――可愛いでしょう。貴方の赤ちゃんよ」





















無音だった空間は、唐突に崩れ散った。


限界を超えたベランダの床が悲鳴を上げ、あちらこちらに裂け目を作り、風穴を空けた。

唯一の、要。掴んでいた柵が、根元から折れた。




視界が、揺れる。


グンッ、と瞳に映る景色が下がる。


















目の前にあった筈の綺麗な笑顔が、急に見えなくなる。

遠ざかる。



重力に逆らえぬ身体は、気持ちの悪い浮遊感を連れて、遥か下の地上へと落ちていく。




頭上の火柱が、彼女の影を覆った。