所々炭化した真っ黒な火柱の下から覗いていたのは、床を這う一本の手。
…それが誰なのか分かった途端、アシュは無我夢中で瓦礫を押し退け…。
「………お………父、様…」
…柱の下敷きになっていた父の傍で、震えながら膝を突いた。
…倒れてきた火柱を、避けきれなかったらしい。巨大な柱で押し潰された腹部からはドクドクと鮮血が流れ出ており、床に血溜まりを作っていた。
乱れた髪と被った煤の下から覗く父の瞳は、既に生気が薄らいでいて………意味も無く、虚空を映していた。
瞼に火の粉が散ろうが、熱風が眼球を撫でようが、彼は何の反応も見せなかった。
…だが、その乾いた唇だけは………ただ、ずっと…一つの言葉を紡ぎ続ける。
「………………アシュ……アシュ……アシュ…アシュメリア………………何処……だ………アシュ………………アシュ…………………………………………帰って………来なさい」
「―――」
ただの、譫言。
死に際に、一体何の夢を見ているのだろうか。
今まで、そんなにあたしの名前を呼んだことなんて、無かったくせに。
今更、父親面なんかしちゃって。
腹が立つ。
凄く、腹が立つのに。
(………なんで、あたし)
こんなに、泣いているんだろう。
こんなに苦しいんだろう。
胸が痛いんだろう。
ああ、嫌だ。
ちゃんと、愛されていたなんて。今分かるだなんて。
腹が、立つ。


