亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~

迫り来る高熱の火柱の動きを目で追いながら、アシュは咄嗟に、もはや行き場の限られたベランダの端へと半ば転がる様に飛びのいた。
巨大な火柱の長い影が伸び、アシュの傍らを過ぎ、大音響と共にベランダの床を叩いた。
まるで地震でも起こったかの様に、足元が揺れる。

黒焦げになった木材の残骸が四方八方に散り、熱を連れた赤い風が襲う。
アシュは赤ん坊を守る様に熱風に背を向けて屈んだ。

巨大な炎と化した屋敷からは、バキバキと木が軋む音が絶え間無く鳴り響いていた。
雨の様な火の粉は勢いを増し、床の一部には火が燻り始めている。


火が、自分達を囲んでいる。この床もいつ抜けるか分からない。
…恐怖に苛まれた身体は、ガタガタと震えていた。腰が抜けてしまったのか、立ち上がる事が出来ない。


………火だるまになるのを待つばかり、か。
でも、せめて………。


せめて。




















目尻に溜まった温い滴が、ゆっくりと頬を伝った。





















「―――アシュ…!!」






















悪魔の冷笑にも思える、踊る炎の不協和音の中。
その声は、はっきりとアシュを捉えた。

何て意地悪な幻聴なのだろうか。神様は最後の最後で人をからかうのが好きなのだろうか。
………彼の声が、あの人の声が聞こえる。
聞き間違える筈が無い。


…確かに今、声が。










「アシュメリア!!」




「………あ………ザイ?………ザイ…!?」


…ザイだ。やっぱりザイだ。…ザイの声がする!

反射的にアシュは顔を上げ、聞き慣れたその声に目を走らせて辿った。
………熱風に、火の粉に、瓦礫。
様々な障害物のある周囲を見渡す。