「―――…言うんだっ…アシュメリア…!!」
こんなの、認めない。
絶対に認めない。
認めて、なる、ものか。
足元の水溜まりに靴底を浸らせ、伯爵は大股でアシュに歩み寄った。
予想外の彼の行動に、アシュは動揺のあまり一瞬だけたじろいた。
…その一瞬の隙に、伯爵は蝋燭を握る彼女の腕を掴んだ。
身をよじって抵抗するアシュだが、どう足掻いても振り払えない。
目の前に立つ恐ろしい形相の伯爵は、今にも泣きそうな娘を見下ろし、低い声で喚いた。
「……誰だ!!誰なんだ!!…お前を変えたのは、何処のどいつだ!!言うんだ!!……言え!!言え!!………私の娘を変えた男など…殺してやる…!!………誰なんだ!!誰なんだ!!アシュメリア!!」
「―――嫌ぁっ!!」
薄暗がりの中、二人の人間の声がぶつかり合う。
伯爵の短剣を握る手が、四方八方に何度も空を切る。ギラリと光る刃は時折アシュの頭上を過ぎ去り、また往復していった。
その切っ先が一瞬、アシュの真横を縦断していった。
抱き抱えている我が子に当たりでもしたら、とんでもない。…反射的にアシュは、後方へ退け反った。
更に後ろへ離れようとする彼女の腕を、逃がさんとばかりに伯爵は掴む手に力を込めた。
………その、途端。
アシュの腕に、鈍い痛みが走り。
フッと、力が抜けた彼女の細い手は。
―――…揺らめく小さな炎を、虚空に放した。
真っ赤な火は闇を照らしながら、落ちていく。
次の瞬間、闇は、鮮明な赤に塗り潰された。


