亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~


突き付けられる恐怖を、アシュは受け止める。しっかりと目を見開いて、この父を睨んで、唇を噛み締めて。

「………あたし…たぶらかされてなんか、いないわ…」

瞳孔が開ききった父の目が、更に鋭くなる。震える彼の口が何か言おうと開いたが、寸前でアシュの声が遮った。

「………………あたし……あたしから、好きになったの。………他人から決められた人じゃない。……恋をして…ちゃんと、好きになったのよ…。………だから、たぶらかされてなんかないわ。……ねぇ、お父様…どんな人かなんて…決まってるじゃないの。………彼は…」







彼女は、ふと視線を外し…そのまま、胸に抱く我が子へと注いだ。
薄明かりに浮かぶその眼差しは、まるで聖母の様な優しさと温かさを秘めていて。





………今まで見たことのない、本当に幸せそうな、笑みを。


…浮かべて。

















「………あたしに、幸せをくれた人よ」

























幸せ。








そう言った娘は、確かに。

……とても、幸せそうだった。





幸せに、浸っている。感じている。酷く、酔いしれている。

私の知らない、娘がいる。




私の知らぬ所で、娘は幸せを得ている。

私が与えたものではなく。
私ではない赤の他人によって。
私の娘は、変わっていく。
私の知らぬ場所へ、歩いていってしまう。



その笑顔が、全てを物語っている。







私の、大事な娘。


血は繋がっていなくとも、彼女は大事な大事な、私の娘。



私が見たかった、娘の幸せ。

















あんなに見たかった筈なのに。








今は。