突き付けられる恐怖を、アシュは受け止める。しっかりと目を見開いて、この父を睨んで、唇を噛み締めて。
「………あたし…たぶらかされてなんか、いないわ…」
瞳孔が開ききった父の目が、更に鋭くなる。震える彼の口が何か言おうと開いたが、寸前でアシュの声が遮った。
「………………あたし……あたしから、好きになったの。………他人から決められた人じゃない。……恋をして…ちゃんと、好きになったのよ…。………だから、たぶらかされてなんかないわ。……ねぇ、お父様…どんな人かなんて…決まってるじゃないの。………彼は…」
彼女は、ふと視線を外し…そのまま、胸に抱く我が子へと注いだ。
薄明かりに浮かぶその眼差しは、まるで聖母の様な優しさと温かさを秘めていて。
………今まで見たことのない、本当に幸せそうな、笑みを。
…浮かべて。
「………あたしに、幸せをくれた人よ」
幸せ。
そう言った娘は、確かに。
……とても、幸せそうだった。
幸せに、浸っている。感じている。酷く、酔いしれている。
私の知らない、娘がいる。
私の知らぬ所で、娘は幸せを得ている。
私が与えたものではなく。
私ではない赤の他人によって。
私の娘は、変わっていく。
私の知らぬ場所へ、歩いていってしまう。
その笑顔が、全てを物語っている。
私の、大事な娘。
血は繋がっていなくとも、彼女は大事な大事な、私の娘。
私が見たかった、娘の幸せ。
あんなに見たかった筈なのに。
今は。


