亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~





―――…お前は、私の娘だろう!!

―――…どうして親に従わない!!

―――…どうして逆らう!!

―――…どうして嘘を吐く!!


―――…お前の親は誰だ!!誰だ!言ってみろ!!私だろう!!



―――…アシュメリア!!アシュメリア!!




―――…お前をたぶらかしたのは誰だ!!私からお前を奪うのは誰だ!!




………殺してやる…殺してやる。


―――…アシュ…アシュメリア…。








「アシュメリア!!」





















殺気を孕んだ恐ろしい声は、屋敷内に響き渡り、アシュの身体を芯から震わせた。
五階まで一気に駆け登ると、アシュはそのまま自室に駆け込んだ。



勢いをそのままに机に駆け寄り、傍らに置いていたランプを掴むや否や………床に、叩き付けた。

衝撃で小さなガラスが至る所に飛び散った。中に入っていたランプの油が床一面に広がり、絨毯の端から端へと滲んでいく。

すかさず予備のランプにも手を伸ばし、アシュは壁に放り投げた。
どろりとした透明な油が、カーテン、寝台のシーツ、壁紙に付着した。


……開け放ったベランダの方へと駆け寄り、ゼエゼエと肩で息をするアシュ。
…途端、部屋のドアが外から他人の手によって大きく開けられた。


顔を上げたアシュの目は、扉の前で佇む父の姿よりも、怪しく光る短剣の刃を真っ先に捉えた。

ぶるりと、身体が震える。



夜道を歩く時に…と、あらかじめ荷物に潜ませていた蝋燭を慌てて取り出し、片手と口を使ってマッチで素早く火を点す。




…ボッと、暗闇に突如現れたオレンジの小さな光は、震えながら父を睨むアシュの表情と、油塗れの室内をぼんやりと照らした。