―――…ただ…。
………ただ、自由が欲しい。
………それだけ、なのに。
自由に向かって伸ばした、あたしの手。どうして神様は、前を遮ろうとするのだろう。
他には、何もいらないのに。
………もう、嫌なの。
…富も名声も、何もいらない。あたしがあげられるものは全部差し出すから。
………嫌なの。お願い、嫌なの。
嫌なの。嫌なの。嫌なの嫌なの嫌なの嫌なの嫌なの嫌なの嫌なの嫌なの。
嫌、嫌、嫌、嫌、嫌嫌嫌嫌。
「―――…嫌ぁっ…!!」
顔面蒼白。血の気の失せた顔。しかし、その額に汗が滴る。
恐怖が、身体を苛む。アシュを、突き動かす。
疾走、する。
「―――…アシュメリア…!!………お前は…また私を…私を裏切りおって…!!」
凄まじい怒気に震える父の低い声を背に、アシュは今しがた降りてきた階段を、今度は駆け登っていた。
手摺りを掴みながら、上へ上へと昇っていく。
息が切れようとも、足が限界を訴えて痛もうとも、アシュの意識は聞き入れなかった。
ただ、走った。逃げた。
父の怒声と足音が追い掛けてくる。
鈍く光る短剣の刃が、闇を切り裂いていく。
…伯爵は、奥歯を噛み締め、半ば瞳孔が開いた瞳で遠ざかる娘の背中を睨み、狂った様に短剣を振り回しながら彼女の後を追った。
怒りに煮えたぎった頭は、目茶苦茶に伯爵を喚かせていた。


