亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~






















―――…ただ…。



















………ただ、自由が欲しい。






















………それだけ、なのに。

















自由に向かって伸ばした、あたしの手。どうして神様は、前を遮ろうとするのだろう。




他には、何もいらないのに。














………もう、嫌なの。




…富も名声も、何もいらない。あたしがあげられるものは全部差し出すから。


………嫌なの。お願い、嫌なの。



嫌なの。嫌なの。嫌なの嫌なの嫌なの嫌なの嫌なの嫌なの嫌なの嫌なの。
嫌、嫌、嫌、嫌、嫌嫌嫌嫌。



















「―――…嫌ぁっ…!!」









顔面蒼白。血の気の失せた顔。しかし、その額に汗が滴る。
恐怖が、身体を苛む。アシュを、突き動かす。


疾走、する。






「―――…アシュメリア…!!………お前は…また私を…私を裏切りおって…!!」

凄まじい怒気に震える父の低い声を背に、アシュは今しがた降りてきた階段を、今度は駆け登っていた。
手摺りを掴みながら、上へ上へと昇っていく。
息が切れようとも、足が限界を訴えて痛もうとも、アシュの意識は聞き入れなかった。

ただ、走った。逃げた。

父の怒声と足音が追い掛けてくる。





鈍く光る短剣の刃が、闇を切り裂いていく。




















…伯爵は、奥歯を噛み締め、半ば瞳孔が開いた瞳で遠ざかる娘の背中を睨み、狂った様に短剣を振り回しながら彼女の後を追った。

怒りに煮えたぎった頭は、目茶苦茶に伯爵を喚かせていた。