普段から長い、長過ぎると思っていた階段に、ようやく終わりが見えてきた。
四階、三階…と過ぎ、二階に着いた時には、アシュはほとんど小走りで降りていた。
階段はもう飽き飽きだ。平面な廊下が恋しい。出口が待ち遠しい。
寒いけれど、外の冷たい空気を、胸いっぱいに吸いたい。
ああ、早く。早く外へ。
柵を振り切って、外の世界へ。
自然と、アシュの顔には微笑が浮かんでいた。
口元がにやけているのが自分でもよく分かる。
視界の下半分に、一階の広間が映った。
その先に佇む屋敷の大きな厳つい扉はまだ見えないが、もう少し降りれば見える筈だ。
(あと少し。あと……あと…)
逸る気持ちを抑え、口元の笑みはそのままに、アシュはまた一段階段を降りる。
一段。
一段。
広大な広間が、眼前に広がっていく。
少し離れた先に、扉が見えた。
階段も、あと十段も無い。
再度片足を降ろそうと、暗い足元に目をやった。
一段。
一………段……。
―――…不意に、アシュの爪先は次の段へと降り立つ寸前で………ピタリと、制止した。
…同時に、高揚していた気持ちは一気に冷めていく。
高鳴る心臓が一瞬止まったかの様な錯覚を覚えた。
アシュの表情には、笑みなど無かった。
大きく見開かれた彼女の瞳は、小刻みに揺れ、困惑を纏い…そして。
「―――………お…………父……様…?」
視線の、先。見下ろす先。
階段の一段目。
短剣を握って腰を下ろしている、父の姿を映していた。


