ゆっくりと見飽きた室内を見回し、見飽きた窓からの眺めを見詰め、静かに深呼吸をし………アシュは、笑顔を浮かべた。
そして、自分の腕の中で可愛いらしい寝息をたてる小さな我が子に目をやった。
本当によく眠る子だ。赤ん坊なのに、この子はあまり泣かない。夜泣きもほとんどない。一度寝てしまうと、ちょっとやそっとじゃ起きない。
…今夜はこのままぐっすりと眠っておいてほしい、と願いながら、アシュはマントのフードを被った。
もう、独りではない。彼がいて、この子がいて。
………三人。
凄く、素敵。夢みたい。
しっかりと防寒対策が施された、厚手の産着に包まれた我が子の額に小さなキスを送り、アシュは音を立てないようにそっと扉を開けた。
隙間から顔だけ覗かせ、真っ暗な廊下を注意深く見回す。
消灯の時間をとっくの昔に過ぎている屋敷内は、当然の如く闇と静寂が蔓延しており、人気など皆無だった。
隙間から身体を滑り込ませ、廊下に出るや否や、忍び足で階段へと急ぐ。
…底の見えない足元の階段は明かり無しでは酷く危険だったが、あらかじめ夜目に慣らしていたアシュの瞳は、闇の中でも朧げな階段の凹凸を捉えていた。
音を立てぬ様、一段、一段、また一段………。
張り詰めた緊張感に冷や汗をかきながら、アシュは五階から一階を目指して慎重に階段を下りていく。
…大丈夫。大丈夫よアシュメリア。大丈夫だから………落ち着いてちょうだい。
…バクバクと動悸がする心臓の音が、とてもうるさい。
心なしか震えている唇をギュッと噛み締め、少しだけ加速した。
絨毯の敷かれた階段は、アシュの足音を消していく。
音という音など一つも立てる事無く、アシュは順調に降りて行った。


