顔色の悪い初老の男…神官は、背後の姿は見えぬ我が主に改めて向き直る。
己の息遣いが鮮明に聞こえる程静かな空間で、奇妙な二人の人間は簾を挟んではいるが、面を合わせていた。
神官はしわの寄ったニヒルな笑みを浮かべ、何の前触れも無く話始める。神官の話は、常に突拍子も無いのが特徴の一つだった。
「……………どうか…独り言だと思って下さい。……今夜は、やけに冷えますよ」
…口を開いたかと思えば、独り言だと言い、且つ脈絡の無い台詞。
神官の何気ない独り言に、長老の低い声が木霊した。
「―――…………………ふん………何が“見えた”のだ?………その『眼』は、先も見据えることが出来たのか?」
…そう言った途端、神官は「まさか」と鼻で笑った。
「………残念な事に、先の事は無理だ。貴方もご存知でしょう?…………………………ただね……………少々…悪寒がするのだよ。………頭が痛い」
「………」
神官は、再度目をつむった。
閉じた瞼の内で、神官の瞳は、『眼』は、見詰めている。
何処かを。
何かを。
誰かを。
今夜は冷える、と同じ台詞を吐いた後………神官は微かな頭痛に顔をしかめて、溜め息を吐いた。
悪寒がする。不愉快だ。不快だ。何だこれは。
まるで小言を漏らす様に、神官はポツリと呟いた。
「………今夜は冷える。……………………………出来れば見たくもない、悪夢でも見てしまいそうですよ、長老」


