亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~







分厚い雪雲の、遥か向こう。
ごく稀にしか姿を見せないお天道様が、やはり今日も顔を見せる事なく、何処かの地平線を境目に夕闇に席を譲るべく、ゆっくりと沈んでいく。


外は吹雪いてはいないが、絶え間無く雪がちらつく薄暗がりの世界が広がっていた。
白銀の世界を歩む全ての生き物からは、お天道様は見えない。また明日…と別れを告げる太陽の存在には気付かない。


……だから、そんな孤高の太陽を見ることが出来る自分は、こんな時だけひっそりと独り…小さな優越感を感じる。

閉じた瞼の向こうで、沈みゆく太陽の明かりを見詰める。
…ただぼんやりと眺めていると………背後から、無駄に重々しい声が響き渡った。














「―――……………………今………お前が“見ている”太陽は、美しいか……?」

「………………ああ、美しいですとも、長老。……………眩しいのが、少々難点だがね」



微笑を浮かべながら閉じていた目を開き、神官はゆっくりと振り返った。

背後は、暗闇のみ。
微かに見える先には、偉大なる狩人の頂点に立つ者…『長老』の姿を隠す、簾の様な分厚い生地があるだけ。

だがしかし、神官に向けられた声の主は、確かにその奥にいる。
直接確かめなくとも、神官には彼の姿が見えている。
………そう、“見えている”のだ。










「………何も変わらぬ空の景色など………見おって……………………無駄に『眼』の力を使うでない………」


低い唸りにも聞こえる、『長老』の声。神官はしわだらけの皮膚に収まった窪んだ両目に触れ、自嘲気味に口元を歪めた。


「………この『眼』も、もはやただの老眼さ。………少々、力が鈍っているようでな。………逆に使った方が、いいのだよ」