亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~


確かに、ベッドのシーツやカーテンなど使えそうなものを繋ぎ合わせてロープ代わりにしたとしても、地上には届かないだろう。
当のアシュも、ベランダから遥か下方の地上を見下ろして脱走は即諦めていた。


…だが、今こうやってやや興奮しながら窓を開けるアシュには、脱走などという考えはどうでもいい事でしかない。
透明なガラスの窓を大きく開け放ち、美しい装飾が施されたベランダの縁にまで走り寄った。

思わず笑みまで浮かべる彼女の視線の先には………………一羽の、真っ白な鳥。

早朝、淡い朝日を浴びて囀っている、毎日の様に目にし、何処にでもいる鳥だ。
餌をあげてもあまり懐かない鳥なのだが…その一羽は、ベランダの縁に留まったまま、アシュが近寄っても少しも怯える気配が無い。
小さな嘴で羽を繕いながら、ちらちらと目前のアシュを見てくる。



何とも不自然な鳥だが……そんな事は、関係無い。アシュの意識が注目しているのはその鳥自身ではなく。





…小枝の様に細い、その足に括り付けられた小さな、紙………紙縒りだった。






鳥に紙縒りを結び付けて伝達するこの方法。
アシュは、知っている。




これは、狩人の伝達法の一つだ。



そう、彼は言っていた。













鳥の足からそっと紙縒りを外すと、役目を終えたかの様に鳥は白く霞む雪空の向こうへと羽ばたいていった。
何事も無かったかの様に流行る思いでベランダを閉め、手の平の上で小さな紙縒りを広げる。

しわを伸ばせば、それは小さな小さな長方形の紙で、中央にはそれに収まるくらいの、孤立した漆黒の文字が滲んでいた。




………目にするや否や、アシュは、声を殺して泣き崩れた。