「―――…婚約…破棄?」
「…ああ。一部でしか出回ってない信憑性に欠ける情報だが、わしが言うんじゃから確かじゃぞ。………三日程前、だったかのぉ…」
何処かわざとらしく、且つ何気なくコムが語り出した世間話は、ぼんやりと浮遊していたザイの意識を鷲掴みするには充分な力を持っていた。
コムの話は常に突拍子も無いが、これは本当に突拍子も何も無かった。
微動だにせず、ただ呆然とするばかりのザイなどお構いなしに、コムは欠伸を噛み殺しながら話を進めた。
「…原因は、不明。貴族間の問題じゃ、どうせ下らん事に決まっておるがのぉ。あの屋敷の売買の話が持ち上がっておる点からして、近々、別の街に屋敷を移す気なんじゃろう。………それから、まぁ……妙な話じゃが……………」
聞いてもいないのに淡々と喋っていたコムは、途端、口篭りだす。
…はて、妙な話とは?
小さく首を傾げるザイに、コムは小声で囁いてきた。
「謹慎…と言うよりも、幽閉されておるという噂じゃ。……例の御令嬢がな」
「………幽、閉…?」
令嬢が何をしたのか分からないが、伯爵の機嫌を損ねてしまったのは確実であり、地下やら牢屋に閉じ込めている訳ではないらしいが……自室でありながら、ほとんど監禁状態に近い事を命じられているのだという。
屋敷を別所に移すまで、それはずっと続くそうだ。
「………お嬢様が何をやらかしたかは知らんがのぉ…家主は相当、頭にきたらしい。………令嬢はまた、自殺行為に走ったらしいしな…」
「………」
幸せを、願っての事だった。
それが一番、彼女のためだと思った。
だから、手を、放した。


