亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~



男爵の言葉は伯爵に容赦無く突き刺さるものばかりで、裏切りそのものだったが…正論でもあった。
男爵は男爵なりに我が身を守ろうとしているだけだ。同じ立場ならば、自分もきっと同様に考えるだろう。

彼の気持ちも分かる。だが………この怒りの矛先は変えられない。

わななく両拳は、勢いよくテーブルに落ちる。衝撃で、ガシャンッ…と紅茶のカップが震えた。




(………まさか…こんな……)



予期せぬ展開に、先程まで浮かれていた筈の伯爵の頭は一寸先も見えぬ闇で埋め尽くされていた。

……闇商売で金の回りが悪くなってから、数年。…はっきり言って、家の存続は危うかった。
頼みの綱が、娘の結婚だった。この男爵とより深い縁が持てれば、財を成すことが出来る。

表上は友の面を曝しながら、伯爵は裏では金の事しか考えていなかった。娘が嫁げば、それで家は安泰。だから何としても、成功させたかった。






だが、今はどうだろうか。順風満帆で進んでいた計画は、たった今無残にも粉塵と化し、手元から離れていった。

この手に残るのは、不運に取り付かれた我が身を嘲笑うかの様に吹き抜ける風と、絶望と、守るべきものと。
















―――…赤子、と。









「………そうだ…赤子は…赤子はどうする気だ、男爵…!」

そうだ、まだ自分にはこの男爵をつなぎ止めておく鎖が残っているではないか。
血縁という、切っても切れぬ不滅の鎖が。


神はまだ見捨ててはいない…と言わんばかりに、見開いた瞳で天を仰ぎ、まるで責任転嫁をする様に伯爵は男爵を指差した。

いつの時代も、上に立つ者の栄華や崩落は、たいていが世間体というもので左右される。
血縁のある赤子の存在を無視、半ば放棄も同然の男爵の行為は、道徳に反する。