亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~


伯爵の怒りを前に淡々と話しながら、男爵はわざとらしく盛大な溜め息を吐いた。


…縁を、切る。

それは仕事仲間としても、友としても。








「………伯爵。貴殿の悪い噂は、もはや雲の上だけで吹いているものではないのですよ。………地上を這いつくばる平民の間でも、貴殿の悪名は有名。金の亡者、悪商貴族、と…貴殿の愛称が飛び交っております。それ故に………………貴殿の財を狙う輩が、増えている。……貴殿に関わる者全てに、その目は向けられておりましてね…。貴殿との付き合いも長いですが……………………私も、些か疲れました」

「………貴様…!?」

外を眺める男爵の視線が、奥歯を噛み締める伯爵に注がれた。
男爵の目は、この雪国の吹雪に酷く似ていて………冷たい。





「………共倒れは、御免被る。私は貴殿の友ですが、運命を共にするつもりは毛頭ありません。………貴殿の密輸入の悪商には、そろそろ見切りを付けさせて頂こう。……この、婚約破棄を機に」






事実、ただでさえ危険な綱渡りに近い伯爵の密輸入は、近年ますます危うくなってきていた。
……危険度増加は、肩を並べる二つの隣国が原因である。

獣の密輸入の、主な商売相手はバリアンだが。…近頃、狩人がそれを邪魔するようになっていた。
自然と共に生き、神と崇める彼等は、この密輸入には極めて遺憾の意を現しており、それらしい商人を見付けるや否や問答無用で襲い掛かってくるのだという。
…おかげでバリアンとの商売は上手くいかない。


「………南東のフェンネルもそうです。あの国は元々、密輸入を取り締まっており、商売なんか出来やしない。…おまけに今、あの国の政は危うい。…妙な呪いもありますし、いつ反乱が起こってもおかしくないと囁かれていますよ。……火の粉を被るのは避けたい」