愛する娘の子供なのだ。にやけない親がいない筈がない。
アシュが身篭っているという衝撃的事実が発覚したのは、何度目になるのか分からない自殺行為で一時昏倒した時である。
その治療中に、妊娠していることが分かったのだ。当初は困惑したものの、アシュや屋敷の召使達から、父親は婚約者であると文で知らされてからは狂喜乱舞の心境だ。貴族の娘が嫁入り前に妊娠、とは…少々不埒にも思えたが、いずれにせよこれは既成事実でしかなく、婚約は確定事項となったのだ。
約一ヶ月前に出産したと文が届き、伯爵は今回、意気揚々と娘と孫の待つ我が家に久しぶりに帰るところだ。
名前は自分が付けるから、勝手に命名するなと既に言ってある。
ここに来るまでに、一体何十何百の候補の名前が脳裏で飛び交っていたことか。
今更ながらに、孫が出来たと実感が沸いて来るのだった。
勿論、このおめでたい話は婚約者も目の前の男爵も既に承知している筈で、喜んでくれるのではないか…と思っていたのだが。
(………機嫌が悪そうだな…?)
男爵の浮かべる表情には喜びどころか、不満げな影がかかって見え、おかしいな…と、独り首を傾げる。
ついでに言えば、あまり歓迎されていない様にも思えた。
…友の奇妙な態度が気にはなったが、今はそれどころではない。一刻も早く屋敷に帰り、初孫の顔を見たい。
酷い吹雪に見舞われなければ、明日の朝と予定していた到着も今夜中になるかもしれない。
…孫、孫、と帰宅を急かすもう一人の自分をなんとか抑え、平常心を保ちながら男爵に向き直った。
笑顔を向けてみるが、対する男爵の返してくれる笑みは何処か貼り付けた仮面の様だった。
「………貴殿が帰って来られると聞いていたので…近い内にそちらの屋敷に参ろうと思っておりましたが…手間が省けましたよ」


