「―――…わざわざお越しいただかなくとも…長旅でさぞやお疲れでしたでしょうに…。………どうぞこちらへ。紅茶は何を召されましたかな…?」
「いや、少し立ち寄っただけだ。直ぐに発つつもりだから、遠慮するよ。会話だけで充分だ」
「…そうですか。………貴方も多忙なお方だ」
実に紳士的な風貌の二人は、互いに社交辞令を交わして豪華な装飾のテーブルを挟んで席についた。
会釈をして退室する召使の遠ざかる足音を聞きながら、二人の紳士は改めてお互いを見合う。
この大きな屋敷の家主に、訪問してきた紳士は親しげに笑顔を向けた。
「元気そうで何よりだな。君も多忙なのかね、このところあまり君からの文を見ないが…」
「………多忙、といいましょうか…まぁ、多忙ということにしておいて下さい…」
「ハハッ。言っている意味が分からないぞ、君」
筋の通っていない、よく分からない事を呟く彼に、ケラケラと笑った。
「…それはそうと………貴殿の溺愛するお嬢様は元気でしょうか?」
穏やかな昼下がりに向かい合う二人は、アシュメリアの父。そして彼女の婚約者の父だった。
長旅から屋敷に帰る途中、真っ直ぐ屋敷には向かわず、アシュの父は一旦娘の婿である貴族の屋敷に顔を出していた。
嫁と婿を子供に持つ二人の父親は、同じ貴族の中でも付き合いの長い仲である。
身分は、アシュの父が伯爵、婿側の父が男爵と差はあるものの、婚約には特に支障は無かった。
「…娘のアシュなら………まぁ、あの一年前の騒ぎで少々ふさぎ込んでいるが…近頃はだいぶマシになっているな。むしろ、今は一番心穏やかな時かもしれん。君の子供との婚儀も控えているし…」
…赤子まで、いるのだから。


