家主に送る返事の書面に、召使は戸惑いながらも淡々と嘘八百を書いていく。
文が語るのはいかにも仲睦まじい男女の様子だが、実際は全て真逆。
会話も無ければそれ以前に会ってもいない。
婚約者との仲は、最悪と言ってもよく、お互いで周囲の人間を騙している始末である。
「………婚約者様にも、文を送っておいたでしょうね?……お父様がそちらにいらしたら適当にあしらっておいて…って話…」
「………はい。既に出しております」
「……そう。……………もういいわ…昼食は要らないから………出ていってちょうだい」
その顔は確かに微笑を浮かべているが、紡がれる彼女の言葉には有無を言わせない冷たさと見えない棘が絡んでいる。
…彼女に逆らえない召使は怖ず怖ずと頭を下げ、言われるがまま退室するべく踵を返した。
ここ数ヶ月間、アシュメリアはだいぶ落ち着いた様子だった。
以前の様に泣きわめく事も、自殺行為に走る事も無くなっている。
………それはそうだろう。何故なら、彼女は…。
退室する寸前、召使は何か思い出した様に彼女に振り返った。ビクビクと身体を震わせながら、小声を漏らす。
「………お嬢様、乳母を…お呼び致しましょうか?」
「………………いいえ。……あたし、今日はずっとここにいるから………」
「…分かりました」
―――パタン、と召使の姿が消えると共に扉が閉まる。
…静かになった室内でアシュは小さく溜め息を吐き、無駄に大きな寝台へと歩み寄った。
豪華な家具と並んだ寝台の傍には……四方を仕切りで囲んだ、小さな小さなもう一つの寝台。
その中を覗き込むアシュの表情は先程とは打って変わり………柔らかな笑みで輝いていた。


