賊に誘拐されていたと思われていた貴族の令嬢が、同日の明け方、街の近辺で発見された話だ。
保護された後、誘拐されてたショックのためか……行方不明の間に何があったのか、何故賊が殺されていたのかなど、一切喋ろうとはしなかった。
令嬢を溺愛する彼女の父は、生きていてくれただけでも嬉しい…と涙し、それ以上の事は何も聞かなかった。
実に、謎だらけの騒動。
空白の一ヶ月は、今も闇の中であるが………コムは、このザイが絶対に関わっていたと睨んでいる。
…だが、問い詰めるつもりは無い。どうせ彼は何も喋ろうとはしないだろうから。
「………ま、いいさ。…好きにするがいい。…だがのぉ、わしは老いぼれじゃが………………………少しは頼れ、阿保が」
そっぽを向いてパイプをくわえるコムの声は、投げやりで妙に刺々しいものだったが…。
(………意地の悪い老人だな)
…と、その痩せこけた小柄な背中に、ザイは苦笑を浮かべた。
…そしてまた、ザイは目を閉じる。
その静寂は、雑音や眠気の入る隙が無い。
…ただ、胸が痛い。
いつぞや感じていた、あの胸の痛み。
それは引くことも無ければ和らぐことも無く、ずっと依存している。
罰を受ける罪人の様に、ザイはその痛みを素直に感じ、痛みに堪え続ける。
…風の噂は、嫌でも耳に入ってきた。
貴族の御令嬢は保護されてからというもの…それから、何度か自殺行為を起こしていた。
全ては未遂で終わり、この数ヶ月は大人しくしているらしいが………いつまたそんな事を起こすやら。
人々の口は、面白おかしく彼女を語る。
約一年が、経っていた。


