亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~



「…いつだったかのぉ。…何処の誰とも知れない返り血塗れで、不法侵入してきたのは誰じゃったかの?………忘れたとは言わせんぞ。あれからお前さんは…まるで廃人じゃ。わしの所に入り浸りおって…商売の邪魔じゃ」

「………客など、滅多に来ないじゃないか。…………………落ち着くんだ、ここは…」




…そう言って、積み重なった木箱に腰掛けたままぼんやりと何も無い宙を見詰めるザイに、コムは煙たい小さな溜め息を吐いた。





いつも唐突で連絡など寄越さずに訪れる、この若い狩人がある時異様な姿で現れてからというもの………訪問の頻度が以前よりも増した気がする。

依頼を受けに来たわけでも無ければ、話をしに来たわけでもない。
やって来るとこの男は、ただ………独りで、物思いに耽るだけだ。


ただずっと、それだけ。

一日中微動だにせず、瞑想している日もある。





このザイという、常連客でもあり、知人以上の友でもある狩人。
元から何を考えているのか分からなかったが、近頃はそれが更に輪をかけて…分からない。




彼がどうしてこんな『彼』になってしまったのか。
伊達に情報屋ではないコムには、おおよその見当くらいはついていた。
………血塗れのザイが現れた日。その日は、一番厄介な問題の種とされていた凶悪な賊が、何者かの手によって一人残らず殺されていた。街の貴族の屋敷を襲撃する直前だったらしい。

目も当てられない残忍な光景に、一時騒然となった。獣が食い荒らしたのか、依頼目当ての狩人の仕業だとしても何故名乗り出ないのか。
色々な面で調べられたが、手掛かりになるものも無く……それから月日は経ち、結局当事者の存在も知れぬままだ。




大きな情報は、謎の賊殺し騒動と…もう一つ。



………令嬢の帰還、である。