いつの間にか空は白み、僅かな暗闇だけが森の奥でたむろしていた。
壁の内側からは、少しずつ人の声が聞こえ始める。もう少しすれば、馬車や商人達の出入りが多くなってくるだろう。
二人がいる場所は、街の門がある所の裏手に位置している。
普段もあまり人気は無い場所だが、いつ誰かが通ってもおかしくはない。
…アシュのつぶらな瞳から、止まる事を知らない涙が流れ落ちる。
赤くなった鼻を啜り、しゃくり上げ、結び切れていない唇から湿った白い吐息を漏らす。
…泣いている彼女。
行かないで、と彼女の瞳が語り、叫んでいたが、ザイは何も応えなかった。
「………………ザイ。………嫌よ…嫌。………そんなこと…言わないでよ…」
「―――」
「………………あたし…あんな家より…貴方が、いい。…あたしの居場所は、貴方がいい。………置いて…行かないで……」
「―――」
「………何でもするから。…我が儘なんて言わないから。足手まといにはならないから。………………だから…置いて行かないでよ」
………一歩。アシュが歩み寄れば、ザイは一歩後退する。
手を伸ばしても届きそうで届かない…もどかしい互いの距離は、縮まらない。
それは少しずつ広まり、ザイの姿は徐々に遠くなっていく。
「………置いて行かないで。………ザイ、ザイ。置いて行かないでよ。………ザイ…!」
あたしが拒む理由。それは………あの家が嫌だから帰りたくない…とか…思っていない。
今は違う。今は………貴方と離れたくないから。
どうして、離れていくの。
こんなに傍にいたいのに。
こんなに好きなのに。
好きなのに。


