誰のものなのかも知れない返り血で汚してはいけない、とでも思ったのだろうか。
真っ赤に染まった右手の革手袋を取り、汚れていない素手で、ザイはアシュの手を掴んだ。
…そしてそのまま、街の方へと歩いていく。
有無を言わせない空気を醸し出しながら、半ばアシュを引きずる勢いでザイはやや強引に彼女の手を引いて進む。
ただただ困惑に苛まれるアシュは、何も語らない彼の背中に向かってその名を呼び、時折手を振り払おうと抗ってみるが………返事は無く、解いてくれる気配も無い。
成す術も無くされるがまま手を引かれて歩いていたアシュだったが、積雪だらけの視界に街を囲む大きな外壁が現れた途端、彼女の瞳は揺れた。
「………あ………ザイ……あたし…」
一歩ずつ街へと近付く度にアシュの身体は震え、顔は青ざめていく。
頭の中で、嫌だ嫌だ嫌だ…と子供の様に泣き喚く自分がいた。
無意識に身体は強張り、引き返そうとするが……そんな彼女をザイは引っ張っていく。
「……ザイ………嫌、嫌よ。……やっぱり…あたし…」
「―――………帰れ」
「…嫌。………ザイ…あたしを、連れていって。………ねぇ…ザイ」
「―――………お前は、帰るんだ…!」
すぐ傍に外壁が見える所にまで来るや否や、ザイはアシュの手を離した。
呆然と佇む彼女から自分のマントを取り、ザイはゆっくりと羽織る。
血で染まった彼の身体は、一瞬でマントの純白に包まれた。まるで、汚れた自分を隠す様に。
…二人は改めて、向かい合った。
相変わらず何を考えているのか分からない空虚な視線と、何かに縋る様な揺らめく視線とが重なる。
ザイを見上げるその綺麗な瞳は揺れに揺れ、生温い一滴の雫を零した。


