亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~



本の、数十分前だっただろうか。アオイは狩りをするべく森を歩いてたのだが………奥地から悲鳴が聞こえてきたのが、事の始まりだった。

街の民か、もしくは同士の狩人か誰かが獣にでも襲われたのか。
基本、他人の危機に関心を持たないアオイは、いつもの様に…そのまま無視を決め込もうとした。


………だが、意外な事に…悲鳴は一つでは無かった。


最初の断絶間の叫びから、立て続けにそれは響き渡った。

呻き声、必死な命請い、当ても無く助けを請う声、人の声とは思えない声…。






およそ三十分間、その不協和音は続いた。

最後の悲鳴が空に上がってから少しの間を置いて、アオイは気配を消しながら悲鳴の舞台へと足を運んだ。
一体、何が起きていたのだろうか。


高い木の枝に昇り、影からそっと、森の奥を窺った。
……しばらくすると、岩山辺りから歩いてくる人影を一つ、アオイの目は捉えた。
今はまだ夜明け前の暗い時間帯だが、幸い風も無ければ雪も降っていない。遠くからでも視線の先にいる人間の顔は、よく見えた。





鈍い金属の光沢と、テラテラと光る鮮血に塗れた大きな剣を下げ、ゆっくりと歩いていたのは………意外にも、意外。
昨日の昼間に顔を合わせたばかりの人物………ザイロングだった。




全身他人の血で染まった彼は、何処か虚ろで、抜けきれない悍ましい殺気を辺りに撒き散らしていて………まるで、死神だった。

幾つもの悲鳴の元凶は、彼に違いない。ザイの姿が何処かへ消えてしまった後、アオイは妙な緊張感を胸に岩山付近へと向かい………そして、この地獄絵図を見ることとなったのだ。








……人間の残骸を拾い上げ、アオイはしかめっ面でしげしげとそれを見詰める。