亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~





大きな手が、頭を撫でてくれた気がした。

温かくて、優しくて、とても心地良い。









幼い頃は、よく父が撫でてくれた。
今では欝陶しいだけの溺愛も、あの頃は純粋に嬉しかった。
優しい、優しい手だった。





………でも、この心地良さは…父のそれとは違う。















違う、何か。
感じる愛情は、父からの愛情とは違う。


もっと深くて、濃くて。

………きっと、自分が一番求めていたもの。

だって………凄く嬉しいんだもの。
好きで、好きで、仕方ないんだもの。



…ずっと、このままで。このまま…触れていてほしい。

このまま………放さないで。…離れないで。






…この手は、貴方でしょう。

貴方なんでしょう。












…ねぇ、そうなんでしょう?




…答えてよ。



………ねぇ。












ねぇ。


















ねぇ、ザイ。
























「………」

パキリ…と。



………炭化した木々の爆ぜる音が、アシュを深い夢の底から引き上げた。

重い瞼を開けば、焚火の小さな赤色が飛び込んできた。
焼べた枝は、元の渋い茶色を失い、黒々と染まっている。焚火の勢いやその色は、数時間の経過を物語っていた。




………今、何時くらいなのだろうか。

寝ぼけ眼を擦り、そのまま髪に触れる。







夢の中で感じていた、あの心地良い手の重みは、今は無かった。

…身体を起こすと、いつ掛けられていたのか…ズルズルと肩から白いマントが滑り落ちた。

すっかり見慣れたマントを掴み、ぼんやりと見下ろした。