大きな手が、頭を撫でてくれた気がした。
温かくて、優しくて、とても心地良い。
幼い頃は、よく父が撫でてくれた。
今では欝陶しいだけの溺愛も、あの頃は純粋に嬉しかった。
優しい、優しい手だった。
………でも、この心地良さは…父のそれとは違う。
違う、何か。
感じる愛情は、父からの愛情とは違う。
もっと深くて、濃くて。
………きっと、自分が一番求めていたもの。
だって………凄く嬉しいんだもの。
好きで、好きで、仕方ないんだもの。
…ずっと、このままで。このまま…触れていてほしい。
このまま………放さないで。…離れないで。
…この手は、貴方でしょう。
貴方なんでしょう。
…ねぇ、そうなんでしょう?
…答えてよ。
………ねぇ。
ねぇ。
ねぇ、ザイ。
「………」
パキリ…と。
………炭化した木々の爆ぜる音が、アシュを深い夢の底から引き上げた。
重い瞼を開けば、焚火の小さな赤色が飛び込んできた。
焼べた枝は、元の渋い茶色を失い、黒々と染まっている。焚火の勢いやその色は、数時間の経過を物語っていた。
………今、何時くらいなのだろうか。
寝ぼけ眼を擦り、そのまま髪に触れる。
夢の中で感じていた、あの心地良い手の重みは、今は無かった。
…身体を起こすと、いつ掛けられていたのか…ズルズルと肩から白いマントが滑り落ちた。
すっかり見慣れたマントを掴み、ぼんやりと見下ろした。


