亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~



目下で眠るアシュの顔は、歳の割には幼く見える。
目尻に浮かんだ涙を指で拭ってやり、寒くないようにと自分のマントを被せた。


焚火は、まだ当分の間は消えそうにない。





外の様子を窺うと、とっくの昔に日は落ちていて、既に夜更けだった。

…珍しく雪も風も吹いていない、しんと静まり返った暗闇。


ザイは、焚火に翳していた両手に革手袋を嵌めた。
愛用の剣を背負い、今はただの短い棒にしか見えない弓を腰のベルトに挟んだ。







何も知らずに足元で穏やかな寝息をたてるアシュを、一瞥した。



………すぐに、顔を背けた。
















暖かい洞穴から出ると、凄まじい冷気が肌を刺してきた。
マントが無い分、その寒さの苦痛は大きかったが………気にも止めなかった。
















黒一色に染まった静かな夜に、ザイは、歩を進めた。




無限の、奈落の底にも思える闇を映すザイの瞳に浮かぶのは…。




















真の狩人の、殺気のみ。