目下で眠るアシュの顔は、歳の割には幼く見える。
目尻に浮かんだ涙を指で拭ってやり、寒くないようにと自分のマントを被せた。
焚火は、まだ当分の間は消えそうにない。
外の様子を窺うと、とっくの昔に日は落ちていて、既に夜更けだった。
…珍しく雪も風も吹いていない、しんと静まり返った暗闇。
ザイは、焚火に翳していた両手に革手袋を嵌めた。
愛用の剣を背負い、今はただの短い棒にしか見えない弓を腰のベルトに挟んだ。
何も知らずに足元で穏やかな寝息をたてるアシュを、一瞥した。
………すぐに、顔を背けた。
暖かい洞穴から出ると、凄まじい冷気が肌を刺してきた。
マントが無い分、その寒さの苦痛は大きかったが………気にも止めなかった。
黒一色に染まった静かな夜に、ザイは、歩を進めた。
無限の、奈落の底にも思える闇を映すザイの瞳に浮かぶのは…。
真の狩人の、殺気のみ。


