亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~



『………そうかもしれません………その怖さを越えたからこそ…頂点に立つ者になりえるのだと、思っております。………ですが神官殿…私には……………越えようとするつもりも無いのです』

『…避けられぬ運命に、あえて抗うのかね、ザイロング。………己を嫌うかね。ザイロングとして生まれてきた事を恨むかね。………………せいぜい、抗うがいい。定められた枠の中ならば、全てがお前の自由だ。………自由という名の、牢獄だ』

『………………自由とは、何なのでしょうか。神官殿』

『………お前は頭のきれる狩人だが………そういうのは、文字を覚えるのとは訳が違うのだぞ。………解釈は人それぞれだ。お前は、どう受け止めるのかね…ザイ』

『………』

『…自由など、誰も知らないのだよ。永遠の謎だ。私がお前に教えてやれるのは、自由とは何たるかではない。………………自由を得る、方法だ』


















『―――…犠牲だ、ザイロング。お前にとっての犠牲の向こうに、それは見える』













例えば彼女は。

自由を得るために、何を犠牲とするのだろうか。


























「―――…ザイっ…あたし……あたしっ…やっぱり………帰りたく、ない………屋敷が襲われるかもしれないなら…帰っても危ないだけじゃない………何処にいたって同じじゃない………ねぇ、ザイ………んっ…」






雪にも似た真っ白な首に噛み付けば、艶かしいアシュの口からは小さな喘ぎ声が漏れた。
その白い肌にはいつ付けたのか分からない、映える赤の花が点々と咲いている。

少し黙れ…と彼女の耳元で囁き、細く括れた腰を掴んだ。
グッと引き寄せれば、悲鳴にも似たか細い声が鼓膜を叩く。