貴族の令嬢として生まれて来なければ、きっとこんな苦しい思いなんてしなかった。
ただの民が良かった。
たとえ貧乏でも、普通の暮らしがしたかった。
「………貴方もそう思わない?……狩人の世界は…よく分からないけど………貴方自身、変わりたいとか思わない?…身分だとかそういうの、全部捨てたいとか…ね」
「………………運命は、変えられない…」
だからこそ、人は足掻く。目を背け、背を向け、抗う。
正直、彼女の思いは…痛い程共感出来る。だが変えられないことを自分は知っている。
それでも変えたいのならば…覚悟がいることも、自分は知っている。
犠牲を生み出す、覚悟を。
「…この、堅物。……夢が無いわ。第一、言われなくてもそんな事………知ってるのよ。…だから、夢見るのよ。…………………あたしも、狩人に生まれたかったなぁ…」
笑いながらアシュはザイの白いマントを摘んだり引っ張ったりと弄る。
…狩人になりたいだなんて…生まれて初めて聞いた。
弱肉強食の世界だぞ、と少し呆れて呟けば………アシュは顔を赤らめた。
「………………狩人なら………ザイと一緒だもの。………………違う…?」
「………」
一つ一つの言葉や動作に寄せられた素直な好意に、どう応えるべきなのか…ザイはいまいち分からない。
そのまま黙っているのも悪いし、かける言葉も見付からない。
何が正しいのかさえ分からないが、とりあえず彼女に触れてみる。
半分好奇心でその青色を帯びた銀髪を撫でれば、一度も止まる事なく、絹の如き光沢を放ちながら指の間を擦り抜けていく。
女の髪とは、どうしてこうも美しいのだろうか。


