暗がりでよく見えないが……何が起こったのか理解出来ずにパチパチと瞬きを繰り返してレトを凝視するのは………女性だ。
30代前後の痩せた女性は、同じ様な厚手のマントを羽織ってはいるが………実に質の良い、高値がつきそうな良い衣服を着ている。
吹雪でバサバサと翻るマントの内には短剣が一本見え隠れしているが、使われた試しが無いことが分かる程、新品独特の光沢を放っていた。
………狩人でも………商人でもない。………………普通の、極普通の民……。
(……………貴族…?)
―――その途端、すぐ傍らの大きな岩が粉々に砕け散った。
振り返り様に剣を投げると、鋭利な剣先は宙を切り裂き、砂埃の中に突っ込んでいった。
ブチッ……という、剣が何かに刺さる生々しい音と、不気味な鳴き声。
砂埃が無くなると、その先には、レトの剣によって舌を貫かれた蟲が、深雪の中で悶えていた。
………レトは身を屈め、ジリジリと間合いを取りながら………囁いた。
「………僕がなるべく引きつけるから。………崖を上がれる…?」
ちらりと一瞥すると、女性はハッと我に返り、今にも泣きそうな顔で首を左右に振った。
「――…いえ………………私一人では……この子を抱えて登る事は…」
「…………この子…?」
………そういえば、助けたのは二人だ。
怯える女性はまるで壊れ物を扱うかの様に、大事に……小さな人影を両手に抱えていた。
………真っ白な吹雪で霞んだ視界。
温かい厚手のマントに包まれて、気絶しているのか…眠った様に動かないそれは…。
―――…子供だ。
自分と同じくらいの………。


