亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~



街に近付くにつれ、彼女から元気が無くなっていった。
口数も少なくなり、笑うことも稀にしか無く、何の前触れも無く泣き出したりと…情緒不安定だった。

帰りたくない家に、帰らねばならないのだ。

帰りたくない。
……彼女の中で、その思いはよりいっそう強くなってきていたのか、いつぞやのあの一夜を機に、アシュはやけに甘えてくる様になった。



何かに縋る様に、求めるかの様に、泣きながら震える身体を寄せてくる。

ザイはただ、そんな彼女を慰める事しか出来ない。

彼女が寝るまで一晩中頭を撫でてあげたり、話を聞いてやったりもした。

その時によっては、身体を重ねた事も何度かあった。

そうすれば、彼女が泣き止んでくれるからだ。








そこに、特別な情は無かったと、ザイは思う。




ただ、胸の奥が、痛いだけだった。



何故痛いのか。何の痛みなのか。考えても分からなかった。




























険しい岩壁の、陥没した穴の奥にある小さな空間で、いつもの如く焚火を起こして二人は暖をとっていた。


…自分の屋敷がある街が、小さな森一つ越えた近くにあるせいか…アシュの顔には影が落ちている。

そわそわと落ち着かない様子だったが、ザイは淡々と見てきた街の様子を簡単に説明した。

アシュの屋敷が賊の襲撃にあう可能性があり、街全体の空気がやけにピリピリしていることを伝えると、彼女は不安げな表情を見せた。




「………父様…屋敷に戻ってるのかしら…」

「いや。…どうやら、家主はいないらしい。別の街にいるようだ。屋敷にいるのは、召使だけだ」