亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~




街から一面の銀世界に出るや否やザイは周囲の窺い、何の気配も無いと分かると、直ぐさまその駿足で雪路を駆け抜けた。

人か獣か、他人には判別し辛い追跡を防ぐ足跡を残しながら、ザイは風の様に大地を走り、森に身を投じ、立ち並ぶ木々の群れを縫う様に突き進む。
時折木々の枝から枝へと跳び移りながら、物凄い速さでただ黙々と進んでいった。



前を遮る、真横に伸びた太い枝の上に跳び乗ると、ザイはそこから一気に跳躍した。
それは目にも止まらぬ速度を帯びており、人影なのかどうかさえ判別し辛い。
はためくマントに包まれた白い影は森の頭上を過ぎり、針葉樹の群れが途中途切れた何も無い場所に音も無く降り立った。



再度周囲の気配を窺い、ザイはすぐ傍らに広がるさして険しくない崖の底へと飛び降りた。


地上よりも暗い崖下は、厚い積雪があるだけの殺風景が広がっている。
険しい壁は所々陥没しており、その奥には闇が居座っていた。



その場で凍った枝や埃が付着したマントを軽く掃い落としていると、その背中に何かがぶつかってきた小さな衝撃と共に…。









「………お帰り」



…と、少々照れ臭そうな小声が囁かれた。



後ろを振り返れば、マントを掴んでこちらを見上げてくるアシュが立っていた。
そんな彼女に、ザイは溜め息を吐く。

「………外に出るなと言った筈だ」

「…悪かったわよ。………………それで…あの……………………街の様子…どうだったの…?」

















この約一ヶ月間。東へと進み、また引き返し………そして今現在、アシュの屋敷がある街の近くまで、二人は来ていた。

まずは様子を窺ってくるとアシュを残し、ザイだけが街に行っていた。