私には、到底理解出来ない。
理解出来る日など、きっと訪れはしない。
…自分にがむしゃらにしがみついて泣いている彼女を見ていると、何故だか悲しくなった。
零れ落ちる涙の一滴一滴は焚火に照らされ、美しい赤い宝石にも見えた。
胸の辺りが、酷くざわめいていた。
弱々しい泣き声で名前を呼ばれる度に、そのざわつきは酷くなる。
静かな、自分の中の何かに…波紋が広がる。幾つも。幾つも、絶え間無く広がる。
私の知らない、好きという感情。
それを泣きながら私に向かって連呼する彼女を見下ろしていると………胸の辺りが締め付けられる様な感覚を覚えた。
…泣くな。泣かないでくれ。
苦しまないでくれ。
………………我が儘など、幾らでも聞いてやるから。
だから、泣くな。
お前が泣かないでくれるのならば。
お前が、望むのならば………私は。
どうにもこうにも、苦しくて。
泣き止んでほしくて。
どうすればいいのだろう、と考える事も出来ず。
…ただ、彼女が望むのならば…。
それだけを思い、ザイは泣き続ける彼女に顔を近付けて。
震える小さな唇を、そっと、塞いだ。
涙の味がした。
湿った、柔らかなその感触から離れようとしたが、しがみついてきたか細い手に引かれて、離れられなかった。
これは、彼女への憐れみなのだろうか。
彼女が可哀相に見えて、仕方なかったのだろうか。
唇を塞ぎ、啄み、華奢な身体を抱き寄せ、肌の香を胸一杯に吸い込み……。
…何処かから沸き上がってくるこの何かが、理解出来ない。


