その感情の名前は、勿論知っている。
だが、理解出来ない。知っているのは上辺だけで、理解はしていない。
…縁もゆかりも無いその感情を理解できれば…私は、少しだけ…人間らしくなれるのだろうか。
私は、変われるのだろうか。
嫌いな自分。もう飽き飽きしている『ザイロング』という自分が、少しくらい………好きになれるだろうか。
この、何処かに大きな風穴が空いている冷たい胸の内。
ここに感じたことの無い、熱が宿れば…私は。
…羨ましい。
とても、羨ましい。
そんな人間らしい彼女が、羨ましい。
………ああ、だから。
「………見ていて……飽きないのだな…」
無意識で斜め下にある赤らんだその頬にそっと触れてみれば、彼女は目を丸くして、その真っ赤に染まりきった綺麗な顔を向けてきた。
…見下ろしてくる瞳を、アシュはただただ見詰めた。そこにはどんなに目を凝らしても底の見えない、静かな闇があるだけだった。
光なんて、無い。
自分の様な生温い生き方をしてきた人間には到底知りえないであろう…暗い何かが、渦巻いている。
星など皆無のその黒い空は、捉えたものを引き付ける何かを秘めている様で…。
………この人は、何を望んでいるのだろう。
瞳に映るもの全てに、何の関心も無い。全てに失望している様な………そんな瞳。
………生まれも育ちも経験も、何もかも違う赤の他人だけれど。
「………………あたしの目に、似てるわね………貴方の目」
そんな彼の瞳が今…自分を映していて、見ていて飽きないだなんて、言っている。
変かもしれないけれど………何故だか、嬉しい。
自分なんかを見てくれているのが、嬉しい。


