亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~


…先程の勇ましい態度は何処へやら。アシュは脱力した様に大きな溜め息を吐き、色々なやる気を失った視線を焚火に注いだ。

まだ痛むのか、右足を時折摩っている。








「………今………あたしの街に、また引き返してるのよね…?」

「………………ああ」

「…どれくらいかかる?」

「…天候次第、だな。………この吹雪とお前の足の事を考えると、十日…二週間以上はかかるな…」

「……そう。…そっか。……………あたし……馬鹿みたい…」












………彼女から反論も無ければ、文句も無い。

騙されてると確信しながらも、彼女は不思議と大人しかった。




…嫌だの何だのともう言わないのか、と苦笑混じりに問えば、アシュは同じ様な苦笑を浮かべて首を横に振った。

「………この白い世界では…残念だけど、あたしには貴方だけが頼りだもの。…その貴方が帰るって言うなら………仕方ないじゃないの」






…そう言う彼女は随分と物分かりがよくなった様に思えたが…反面、哀れに見えて仕方なかった。





痛い…と呟きながら足を摩り、ついでに可愛いらしいくしゃみを何度か連発するアシュ。

ぼんやりと見ていると、無性に微笑ましく思えてくる。
………あんなに小さくて細い身体で…健気なことだ。


見ていて飽きないのは、そのせいだろうか。














また一つ、アシュはくしゃみをした。

マントをしっかりと羽織り直して、鼻を啜っている。






…寒さには免疫のある自分とは違い、彼女にはこの温度でも少々辛いらしい。

身体を震わせる彼女が身を縮め、更に小さくなっていくのを見て、ザイは口を開いた。






「………こっちに来なさい。寒いだろう」