………やはりそうだ。どんなに目を擦っても、耳を澄ましても。どの角度から見ても何度も瞬きしても。
この男、笑っている。
微笑どころではない。まさかの大爆笑だ。馬鹿笑いされているではないか。
この男、なんと爆笑が出来るのだ。
笑われた、という腹立たしさよりも、まさかの新発見に唖然とするアシュ。
これは夢か何かではないかとも疑ったが、頬を抓ってみれば案の定、あら、痛い。
ザイはただひたすら…焚火を挟んだ向かい側で、全身全霊で笑い続けていた。
…そんな彼を観察して一分弱程経つと…どうやら落ち着いてきたらしい。ようやく上げた顔は、いつもの仏頂面がまだ残っているが、初めて見る笑顔だった。
よほど面白かったのか。軽く涙まで浮かべている。
「………………ああ…驚いたな…」
「いや、驚いたのはこっちよ。………そのにやけ顔止めてよ。苛々してきたわ…」
…改めて、怒りが込み上げてきたアシュにザイは笑いながら、すまない…と一言詫びる。
普段の無愛想な顔とは打って変わった新鮮な笑みに、情けないかな…唇を尖らせながらも何処か見とれる自分がいて、アシュは更に顔をしかめた。
「………何だって言うのよ…!……やっぱり…馬鹿にしているでしょう…!」
「………そうではない。…いや、確かに少し前まで私はお前を舐めていたな。……だが………とんだ、お嬢様だった様だ。………参ったよ…図星だ」
まだ少し笑いながら、ザイは平然と肩を竦めて見せる。
………ほらやっぱり、と怒るところなのだが、何故だか呆れてしまって肝心の怒りが込み上げてくれない。
苛々するのは確かなのに。
「………拍子抜けしたわ…」


