何故か肩で息をしながら怒鳴るアシュ。どの辺りでそんなに体力を消耗しているのだろうか。
「…最初の一週間くらいは、東。…東に向かってずっと歩いていたけど………貴方、さりげなく引き返しているでしょう!街も避けてるでしょう!あたしが弱音を吐くのを待っているでしょう!?…このままちゃっかり元来た道を辿って…あたしを帰らせる気満々じゃないの!無表情の裏で何考えているんだか!!…ばれてないと思ってた?大間違いなのよ馬鹿!!…馬鹿野郎!!」
…貴族のお嬢様らしからぬお下品な罵倒で締め括られると、息も絶え絶えでこちらを睨むアシュだけが沈黙と共に残った。
ゼエゼエ…と激しい呼吸を繰り返す一方と、無言無表情のままそんな彼女を眺める一方。
とても言葉では言い表せない温度差のある双方の間に、空気を読まない空気が駆けて行く。
…なんだか、予想していた立場と少しばかり違う気がする…と、沸き上がってきた羞恥心に身体を震わせるアシュ。
そもそも、ちゃんと伝わったのだろうか。その時点から既に怪しい。
変な地雷を、踏んでしまった…。
わなわなと震える唇を一度キュッと結び、前言撤回!…と叫ぶべく息を吸った。
…その、途端。
………不動のザイが、不意に片手で顔を覆い………俯いた。
小刻みに肩を震わせ、いつもより少し早い単調なリズムで息を漏らして…。
「―――………………フッ…フフッ…フハハハッ…ハハハハハハ…!」
………これは幻覚と幻聴だろうか。
あのザイが。このザイが。
笑っ…て…。


