ゆらゆらと揺らめく真っ赤な炎から、一度瞬きをしてスッ…と目線を上げれば。
………向かい側に座るアシュと、目が合った。
瞬間、天敵に見付かった直後の小動物の様にビクリと身体を震わせ、彼女は何とも罰が悪そうな表情で目を逸らした。
…気持ちは分かる。
正直、彼女にどんな顔を向けていいのか分からない。……無表情しか浮かべられないが。
物思いに耽りながら、悪いなとは頭の隅で思いつつも彼女を穴が空く程見続けるザイ。
…そんなザイに、さすがのアシュも恥じらいどころではなくなり…眉をひそめて、半ば睨みながら視線を重ねてきた。
互いの隠れた腹の底を探る様な、交差する視線。何の睨み合いだろう、とぼんやり思っていると、彼女の固く結ばれていた形のいい唇が開いた。
「………あたし…騙されてるんでしょう?」
「………………は?」
普段でも思いがけない台詞を吐く彼女だが、これはこれでやはり突拍子も無い台詞である。
………騙されている?
無意識で静かに首を傾げるザイだったが、「その仕草どうにかしてちょうだい。ちょっと可愛いのよ!」と意味の分からない事で一喝された。
「…隠したって無駄ですからね。……あたしがいくら世間知らずの箱入り娘だからって…舐めないでちょうだい。…貴方の腹の内なんて、最初からお見通しなのよ…」
「………………何が?」
私はもうお前が分からん…と、内心で呟くザイを、アシュはビシッとその細い手で指差してきた。
「………ちゃんと、知ってるのよ!…最初から貴方があたしを何処かに連れ出してくれる気なんかこれっぽっちも無いって!」


