亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~












…それ以降、アシュは口を閉ざしたまま…何も言わなくなった。












ザイのマントを頭から被ったまま、焚火の明かりをぼんやりと眺めているだけ。

水を飲むか、足は痛むか…と、時折声をかけてみたが、小さく相槌を打つだけでやはり唇は固く結んでいた。


…会話もほとんど無い、そんな静かな時間は重なり、気が付けば、外は暗闇を纏っていた。

また、吹雪が勢いを増してきたらしい。ビュウビュウとけたたましい大地を削る風の音は、止まる事を知らない。

しかしこの騒音も、静まり返った二人の空間の居心地の悪さを、少なからず消してくれている。


…元々寡黙なザイには、思い付く話題など皆無に等しい。…と言うよりも、そもそも今は会話など出来る空気でもないため、焚火を挟んだ二人の間には、空気を読まない静寂だけが居座っている。



……重い。空気が重い。やけに重い。……早く夜が明けてくれないだろうか。

疲れていないため、睡魔も襲ってこない。焚火を眺めるのもいい加減飽きてきた。剣でも磨こうかと思ったが、それはそれで今度はアシュが眠れないだろう。刃物を研ぐ音は何だか怖い、と訴えられた事がある。

……色々考えた末、何か数えていたら多分その内眠くなるだろう…という安易な暇つぶしに辿り着いた。
思い立ったら決行。

ザイは何かを睨みつける様な恐ろしい視線を焚火に注いだまま………脳内でゆっくりと、ゆで卵を数え始める。ザイという男、別に隠している訳ではないが、ゆで卵が大の好物である。余談。



頭の中。

右から左へと転がっていくホカホカのゆで卵を、一つ…二つ…と数え続け………二百を越した辺り。




全く訪問する気配の無い睡魔にザイはうんざりと溜め息を吐き、何気なく燃える焚火から目線を上げた。