自分以外の、他の存在というのが、正直…苦手だった。
言葉を持たない木や風、雪等の自然、獣を相手にしている方が、落ち着く。
心穏やかだ。胸中の水面は鏡の様になめらかな平面を保っている。
…しかし、一度他の人間の存在が近寄って来れば………水面は、波紋で覆い尽くされる。
…心が、揺れる。
それは酷く不愉快極まりない、何とも言えない気持ちの悪さを沸き立たせる。
他人が、苦手だ。
話し掛けられるのも、名を呼ばれるのも、触れられるのも。
なんとか慣れても、顔をしかめるもう一人の自分が何処かにいる。
苦手、なんだ。
多分自分は…周りや自分が思っている程、強くないのだ。
臆病なんだ。
日の下に出ることさえ出来ない…臆病者なのだ。
他人が、恐いのだ。
だから。
生まれて初めて向けられた、理解しがたい他人の感情にも………私は驚きよりも、恐怖を覚えた。
知らない感情。知らない言葉。
今まで生きてきた人生の経験から見ても、それは理解出来ないもので。
………“好き”とは、何なのだ。
“愛する”とは、何なのだ。
私は、分からない。
どうすればいいのか、分からない。
私は、怖い。
怖いのだ。
アシュメリア。
私はお前が………恐ろしくて、仕方ない。


