亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~



「………やはり、まだ寒いのか?…少し辛抱してくれ」

…あまり刺激を与えない様に気遣いながら声をかけてみたが、彼女からは何の返事も返ってこない。


…忍び泣いているのだろうか。

少し不安になって、気付かれない様にちらりと背中の彼女を一瞥したが、相変わらず顔を埋めたままだ。
頭から被ったマントからは、雪が絡み付いた青銀髪と、寒さ故か赤く染まった耳が覗いているだけ。





聞こえてくるのは、踏み締める雪と弱い風の声。

単調な自分の吐息。

背中越しに聞こえてくる、自分とは違うリズムの他人の吐息。






嘘の様に、静かだ。


冷たい空気に静寂が混じり合う。吹雪が止んだだけで、こんなにも世界が変わるなんて。














少しして、ついさっきまで待機していた小さな洞穴の姿が、森林の向こうに見えてきた。

暖かい焚火の熱が恋しい。

並ぶ木々を避けていきながら、ゆっくり、ゆっくりと、ザイは歩く。

…もう、下手に帰れだの何だのとは言えない。言う気にもなれない。
とにかく直ぐに、寝かせてしまおう。

………それから………彼女を、どうしようか。
やはり、きちんと話すべきか。

………また、泣かれるのは御免だ。天真爛漫な彼女には、笑顔が一番だ。しかし彼女は何を考えているのかいまいち分からないから…急に平手が飛んでくるかもしれない。



それもまぁ、彼女らしいか。


「…………やはり、分からんな…お前は…」


そう言って、ザイは苦笑を浮かべた。















―――不意に、背中に抱えた身体が、微かに動いた。




首に回された彼女の手に力が篭り…。
















「―――……の…」