「………やはり、まだ寒いのか?…少し辛抱してくれ」
…あまり刺激を与えない様に気遣いながら声をかけてみたが、彼女からは何の返事も返ってこない。
…忍び泣いているのだろうか。
少し不安になって、気付かれない様にちらりと背中の彼女を一瞥したが、相変わらず顔を埋めたままだ。
頭から被ったマントからは、雪が絡み付いた青銀髪と、寒さ故か赤く染まった耳が覗いているだけ。
聞こえてくるのは、踏み締める雪と弱い風の声。
単調な自分の吐息。
背中越しに聞こえてくる、自分とは違うリズムの他人の吐息。
嘘の様に、静かだ。
冷たい空気に静寂が混じり合う。吹雪が止んだだけで、こんなにも世界が変わるなんて。
少しして、ついさっきまで待機していた小さな洞穴の姿が、森林の向こうに見えてきた。
暖かい焚火の熱が恋しい。
並ぶ木々を避けていきながら、ゆっくり、ゆっくりと、ザイは歩く。
…もう、下手に帰れだの何だのとは言えない。言う気にもなれない。
とにかく直ぐに、寝かせてしまおう。
………それから………彼女を、どうしようか。
やはり、きちんと話すべきか。
………また、泣かれるのは御免だ。天真爛漫な彼女には、笑顔が一番だ。しかし彼女は何を考えているのかいまいち分からないから…急に平手が飛んでくるかもしれない。
それもまぁ、彼女らしいか。
「…………やはり、分からんな…お前は…」
そう言って、ザイは苦笑を浮かべた。
―――不意に、背中に抱えた身体が、微かに動いた。
首に回された彼女の手に力が篭り…。
「―――……の…」


