…子供だったら、もっともっと、“幸せ”だとか…そんな目に見えない曖昧なものを味わえるのだろうか。
…幸せ。………いや、もう既に…自分は嫌というくらい味わっている。………自分にとっての、あたしにとっての幸せ。
曖昧だけど、確かに、ある。
それは…この心地よい温かさとは違って……もっと熱い。
焦げるくらい、熱い。身体の芯に染み込む外側からの熱じゃなくて。
内から、溢れてくるもの。
(………)
…渦巻く煩わしい熱に弄ばれているのが自分だけだなんて…なんだか癪だなぁ、と眉をひそめる反面……吐き出してしまえば楽かもしれないと諦める自分がいた。
…少し怖いけれど、どうしようもない。
大丈夫。彼は無口で答えをくれないけれど……ちゃんと、聞いてくれる。
…ああ、それにしても…暖かい。
ぬるま湯に浸かっている様なこの感覚が、出来れば…。
出来れば、ずっと。
有限であっても、もう少しこのままで。
我が儘だけど…どうか。
―――…肩に添えられていた細い腕が、日光を求めて伸びる蔦の様に、温もりを探しているのだろうか……極自然な動きでゆっくりと、首に回された。
眠る幼子の様に、背中に頭を預け、顔を埋めているのだろうか。
冷え切った空気の中に僅かだが、花にも似た彼女の香りが鼻腔をくすぐった。
……ギュッと衣服を掴んで、半ばしがみついてくる彼女に…ザイは怪訝な表情を浮かべた。振り返ろうにも、自分の背に埋めているその顔は分からない。
…もしかすると、まだ泣いているのかもしれない。
少し体温の低い華奢な身体は、微動だにしない。


