通常、ブロッディは群れで移動するものだが、幸いにも先程の二匹はまだ群れに入れていない若い雄だった様だ。
周囲を窺ったが、他に獣の気配は無い。運がよかった。
身体は冷える、返り血は浴びる、怪我はする…と、短時間の間に色々とあった。
…何事も無かったかの様にザイは立ち上がり、変わらぬ吹雪に向き直った。
爪先だけで軽く跳び、背中の重みを、抱え直す。
「……しっかり、つかまっていろ」
「………」
おぶる事に恥じらいか何かがあり、断固拒否していたアシュ。
右足を痛めた彼女のためにも、おぶらざるえない。
断られても強引におぶろう、平手打ちも受けよう…と、覚悟していたのだが………意外にも、アシュはすんなりと了承した。
どういう風の吹き回しなのかは分からないが、大人しく言うことを聞いてくれた事に内心安堵の息を漏らした。
背中に抱えた華奢な身体は、見た目通りやはり軽い。
あまり外に出られない箱入り娘故、人並みの筋肉も付いていないのだろうか。こんなにも軽いと、驚きを通り越して心配してしまう。
ふと気が付けば、あんなに激しかった吹雪は弱まり、周囲を囲む森林の景色がまともに見えるまでになっていた。真横に吹き付けていた雪の群れも、今は垂直に、ゆっくりと降りて来ている。
しんしんと降り積もる雪の中。なだらかで真っ白な雪の絨毯の上を、ザイはゆっくりと歩き始めた。
二人の足跡が残る元来た道に、再び新たな足跡を刻んでいく。


