アシュの身体を温めるそれは、分厚い、何かの獣の革で出来たマント。
白いマント。まだ湿り気のある返り血だらけの、マント。
見慣れた…白い…。
「―――…寒いだろう?…羽織っていろ」
……彼の、ザイのマントは、温かかった。
じわりと、身体の芯まで染み込んでくる温い温度。心地よい温度。
同時に頭上から落ちてきた苦笑混じりの声は、同じくらい温かくて。
どうしてか分からないけれど、優しくて。無性に優しくて。
…優し過ぎて。
………どうして?
…どうして…優しくするの?
こんな…我が儘な………どうしようもない小娘に。
帰れって、言ったじゃない。
帰るべきだって、言ったじゃないの。
………なんで。
「………どうした…何故泣くんだ?………何処か、怪我でもしたのか?………足を捻ったのか…立てるか?」
頭から被せた自分のマントの下で、肩を震わせてグズグズと泣き始めるアシュ。
ザイは少し困惑したが、どうやら捻ってしまったらしい彼女の右足に直ぐさま気が付いた。
苦笑を引っ込め、ザイは彼女の前で屈み込んだ。
…俯いたまま、アシュは半分鼻声の弱々しい声を漏らし、かじかんだ手で
ザイの腕や肩に触れる。
「………ごめ…ごめんなさい………あの…っ…怪我してない?……これ、全部………返り血?…噛ま…れ……てない…?」
「…急に、何だ?………私の事より、自分の心配をしたらどうだ…?………気丈なお前らしくもない」
なんだか泣いている子供を相手にしている様で、ザイは引っ込めた筈の苦笑を浮かべながら、彼女の頭を軽く撫でた。


