「―――………死にたいのか、お前は…」
…吹雪の中…低い声が、アシュの鼓膜を叩いた。思わずビクリと身体を震わせながら、膝の上の両拳を固く握り締める。
…普段とは違う怒気を孕んだザイの声は、強気なアシュを黙らせた。
背中を向けたままの彼がどんな顔をしているのか分からないが……見るのが、怖かった。
「………」
顔を上げる事も出来ず、俯いたまま口を閉ざす。
右足首が、じんわりと痛い。その小さな鈍痛も、今はどうでもいい。
視界の隅で靡くザイのマントが、大きく揺れた。
…こちらに振り返った様だ。
…アシュはひたすら無言を貫き、まるで何かから逃れる様にギュッと目をつむった。
怒鳴られるのだろうか。
見捨てられるのだろうか。
捨てられるのか。
自分なんか放って、何処かに行ってしまうのだろうか。
…ついさっきの、自分の様に。
………我が儘だなぁ。
………自分から出ておいて………我が儘。凄く………我が…儘。
………寒い。…身体は冷え切り、指先には感覚が無い。雪に埋もれた手は、真っ赤だった。
パラパラと、頭に積もった雪が崩れ落ちる。
肩からも、白い塊が落ちていく。
髪と髪の間を、白い結晶が滑り落ちていく。
風が、アシュに積もった雪を丹念に落としていく。
………風、が?
いや………風が……こんなに温かいなんて。
妙に温かく、妙に重みのある不可思議なそれが頭を撫でたかと思うと………バサッ、と空気を扇ぐ音と共にアシュの視界は白くなり………心地よい熱が身体を包んだ。


